木田元の本を読むと、ユクスキュルという生物学者の名前によく出くわす*1。シェーラーやハイデガーはこの人の学説から大いに啓発されたらしいのだが、彼の思想のどこが斬新なのかは正直よく分からない。人間以外の動物にとっては与えられた環境が全てだとか、動物は特定の刺激にしか反応できないとか言われても、「そりゃそうでしょう」としか思えない。例えば、有名なダニの話がある。
ユクスキュルの報告では、自分の出番を待ちながら18年ほどおやすみ中のダニがいたそうです。…この種類のダニさんは、酪酸という物質の臭いだけに反応し、37度という温度だけを唯一の味覚にして、獲物に向かっていくのだそうです。逆に言えば、その環境が得られない限り、後々のハイデガーのタームを使えばその環境に「窮乏して」いるばあい、しかたないのでダニさんはおやすみ*2。
ダニのふるまいを「汗をかいている哺乳動物を認識する」という風に記述することもできるが、実際には単純なセンサーしか持っていないというわけだ。ハイデガーは「動物は世界が貧しい(weltarm)」という文句を残したらしいが、たしかに、ダニは世界が貧しいのだろう。
しかし、もう少し興味深いのは、一見すると知的なことをしてはいても実際にはすごく機械的なルーチンワークしかやっていないことがある、という点ではないかと思う。ティンバーゲンの本とかにはそういう例が豊富にあるが、ダニはいかにも単純な生き物という感じなので、上のようなことを言われても個人的には驚きが少ない。
- 作者: 木田元
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1993/02/22
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