Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

共和国(リパブリック)とは

スクウェアの名作『Romancing SaGa 2』のエンディングから。

  • 子供「皇帝陛下はどうなったの?」
  • 詩人「陛下はアバロンに戻ると自ら退位して、帝国は共和国に変わったんだ」
  • 子供「きょうわこく?」
  • 詩人「もう少し大きくなればわかるよ」

大人ならみな答えられるのだろうか。

一般的な理解

日本語で「共和国」というと、王や皇帝といった君主が支配しない政体とされている。帝政ローマ共和政ローマの区別とか、フランスの帝政と共和政の区別にはこの理解が通用するし、戦前はリパブリックというと天皇制を否定しているとみなされタブー視されたとも聞く。とりあえず、このくらいの理解があれば、上のやり取りは理解できる。

語源的なことをいえば、日本語の「共和」は古代中国史に由来している。

もともと、日本語の共和ということばは中国に起源があって、周の時代の皇帝がいないときに、いく人かの貴族と官僚が政治をやった例が強烈なイメージになって残っている。だから、共和国というと王様がいないという意味になってしまいかねない*1

まぁ、本当にその時期の政体が「共和」と言えるようなものだったのかは疑問があるようだが。参考:共和 (周) - Wikipedia

西洋史の「リパブリック」

しかし、このような「共和国」の理解だと問題が生じることもある。例えば、ナポレオンが皇帝になるときに、「皇帝は共和国とその人民のために全力を尽くす」という宣誓をしている。君主がいない政体という理解だと、この宣誓は意味が通らない。

いわゆる「ローマ帝国」の正式な名称は、ラテン語では「レース・プーブリカ」であって、「元老院と民衆の共有財産」を意味する。「レース・プーブリカ」に実力で君臨したアウグストゥスの資格は、正式には「元老院の筆頭議員(プリンケプス)」。ローマ皇帝の多くは自分の地位を世襲にさせたがっただろうが、ローマ皇帝位は世襲ではなかった。神聖ローマ帝国の皇帝位も原則的には選挙でえらばれて戴冠するものだったし。

東洋史岡田英弘によれば、元老院は中国にはなかったから、「アウグストゥス」を中国式に「皇帝」(光り輝く天の神)と訳すのは誤訳である*2古代ローマは共和政から帝政に変わったと記述されることの多いけれども、少なくとも名目上は、ローマに皇帝がいたことはなく、ローマが帝国であったことは一度もない。

では、リパブリックはどう訳すのが無難なのだろうか。

英語やフランス語のリパブリックというのはコモンウェルスの意味で、王様や皇帝の存在は無関係であり、共和国に王様がいても少しも差しつかえない*3

「リパブリック」と「コモンウェルス」は同語源で、「レース・プーブリカ」に由来する。たぶん「国家」と訳すのがよいのだろう。哲人王を説くプラトンの『国家』も英語だと"Republic"だし。