Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

バーバラ

論理を代数化するとはどういうことなのか、素人臭いやり方で考察してみる。

伝統的な論理は集合を用いて解釈できるから、集合に関する代数的な演算を考えることができれば、論理を代数化できると思われる。例えば、x, yなどの変数で集合をあらわすとする。そして、xyは両者の積集合をあらわすと考え、x+yは和集合をあらわすと考える。集合について考えているので、普通の代数とは違って、x・x = xとなるだろう(ベキ等性)。ところで、普通の計算でこの式を満たすのは0, 1だけだ。そこで、この代数に必要な数は0, 1だけだと見当をつける。

0は空集合、1は全体集合をあらわすと考えて、通常の算術との類比を進めてみよう。例えば、x・0 = 0。この式は、空集合との交わりは空集合であることを意味するのではないか。x・1 = x。この式は、1が全体集合であるとする解釈を許すだろう。足し算はどうか。空集合との和はそれ自身なので、x+0 = x。ここまでは良い。ちょっと気持ち悪いことに、x+1 = 1となる。全体集合との和は全体集合だからである。

引き算x−yは、xに属しyに属さないものの集まりとしよう。引き算と掛け算をあわせると面白いことになる。例えば、x(1−x) = 0という式を考える。これはxに属しつつxでないものに属しているものは空であると言っている(矛盾律)。x(1−y) = 0はどうか。これは、xに属しyに属さないものはないということだから、要するに`All xs are ys.’と言っている。つまり全称命題だ。これを代数的に表現できるということで、三段論法を代数的に表現する道が開ける…。

集合の代数で使われている記号や構文は中学や高校でお馴染みの代数と似ているが、先に見たように、x+1=1のような奇妙な結果も出てくる。また、xy = 0だとしても、x=0またはy=0とは言えない。x, yの共通部分が空だからと言って、x,yのどちらかが空であるとは言えないからである。集合の代数はブール代数と呼ばれる*1

ブール代数の諸公理を用いて、三段論法が実際に証明できるかどうか試してみよう。例えば、伝統論理におけるBarbaraは

  • 全てのSはMである。 s(1−m) = 0
  • 全てのMはPである。 m(1−p) = 0
  • よって、全てのSはPである。 s(1−p) = 0

という形式の推論である。最初の2つの等式を前提して、3つ目を導く。ただし、面倒なんで単位元のルールを使っている。

s(1−p)
= s(1−p)+0 [単位元]
= s(1−p)+s(1−m) [仮定の式を代入]
= s( (1−p)+(1−m) ) [分配則]
= s( (1−p)・1 + (1−m) ) [単位元]
= s( (1−p)(−m+p)+(1−m) ) [代入]
= s( (1−p)(1−m)+(1−p)p+(1−m) ) [分配則]
= s( (1−p)(1−m)+(1−m) ) [補元]
= s(1−m) [吸収律]
= 0