Skinerrian's blog

論理学・哲学・科学史・社会学などに興味があるので、その方面のことを書きます。更新は不定期。

歴史

児玉『オックスフォード哲学者奇行』

オックスフォード大学にゆかりのある哲学者たちの人生模様を紹介する本.哲学の話はあまり扱われていないが,ゴシップが豊富で自分も知らない話も多かったので,読んでいて楽しい本だった.吹き出しそうになることも何度もあった. たとえば,ライルとエア(…

ケルヴィン、グラスゴー大学

科学史の小ネタ。 スコットランドのグラスゴー大学教授だったケルヴィン卿は*1、1901年に日本政府から勲一等瑞宝章を贈られた。その経緯は次のようである。 明治政府は西洋の科学技術を導入するため、1870年に工部省を設置して、そこを窓口として多くの外国…

マシュー・パリス

ソクラテスは書かぬ人だったが、弟子のプラトンはソクラテスのアイデアを(どこまで忠実かは分からないが)対話篇の形で後世に残した。…という通説に反した中世の絵がある。どういうわけか、プラトンが後ろに立ってソクラテスに本を書かせている絵になってい…

大内宿とイザベラ・バード

この前紹介した、YouTubeの「ゆっくり大江戸」で大内宿の動画を見て触発されたので、その勢いで大内宿に行ってきた。知らない人向けに簡単に説明すると、大内宿は福島県南会津あたりの宿場。江戸時代の雰囲気が残った景観が魅力的で、年間100万人ちかい観光…

学問に王道なし

この警句のルーツについては諸説ある。 おそらく一番有名なのは、ユークリッドがエジプトの王プトレマイオスにそう言ったという説。この説は5世紀の新プラトン主義者プロクロスの『ユークリッド原論1巻への注釈』で述べられているという。しかし、プロクロス…

「日本史のミカタ」のミカタ

日本史のミカタ (祥伝社新書) 作者: 井上章一,本郷和人 出版社/メーカー: 祥伝社 発売日: 2018/09/01 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る 東大史料編纂所の本郷和人教授と日文研の井上章一教授の対談本を読んだ。関東史観の本郷と京都史観の井上によ…

起源の剽窃

あまりに偉大な文化的名声のゆえに、ギリシャ哲学は憤りを買うこともあった。ギリシャ哲学によって自分たちが文化的に追いやられていると感じた集団が、ギリシャ哲学には新しいものは全く何もない、それはことわりもなく剽窃を行なってきた伝統にすぎないと…

産業革命の起源

山形浩生のブログ「経済のトリセツ」で、彼のamazonレビューがまとめて掲載されていたので、軽く読みふけってしまった。その中で、グレゴリー・クラーク『10万年の世界経済史』のレビューに追記がなされているのに気付いた*1。以前の彼のレビューはかなり本…

反事実条件法と歴史

最近、アメリカのドラマ『ビッグバンセオリー』を見ている。知らない人のために、wikipediaから「あらすじ」を引用しておく。 2人合わせたIQが360という二十代の仲良しオタクコンビ、レナードとシェルドンはカリフォルニア工科大学の物理学者。カリフォルニ…

司馬史観を問う?

テレビの歴史番組で最近よく見かける磯田道史が司馬遼太郎についての新書を上梓した。未読なのだが、amazonのレビューを見たら、歴史家が司馬遼太郎を論じることはこれまでほとんどなかった、と著者は言っているらしい。レビュアーは大御所がこれまでにも司…

月距法

最近、歴史が面白いと思えるようになっていて、色々と啓蒙書を読んでいる。次の本はユニークで面白いと思った。 世界の歴史〈12〉ルネサンス (河出文庫) 作者: 会田雄次,中村賢二郎 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 1989/12 メディア: 文庫 購入: 1人…

eternalwind氏追悼

俺は自分が貧乏人の生まれで、貧乏人の立場から見て、「弱者の味方リベラル様」の意見が全く役に立たず、むしろ弱者の敵になってる事実に怒ってるだけのアカウントなんですよ。たまたま受けてるのは、俺と同じような意見が世界的に表面化してるからでしょう…

楽しいプロパガンダ

プロパガンダについて書かれた新書サイズの解説書を読んでみた。 たのしいプロパガンダ (イースト新書Q) 作者: 辻田真佐憲 出版社/メーカー: イースト・プレス 発売日: 2015/09/10 メディア: 新書 この商品を含むブログ (13件) を見る プロパガンダというと…

げんきな日本論

『ふしぎなキリスト教』→『おどろきの中国』につづく(?)対談シリーズの第三弾。ざっと目を通してみた。 げんきな日本論 (講談社現代新書) 作者: 橋爪大三郎,大澤真幸 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/10/19 メディア: 新書 この商品を含むブログ (2…

利子の禁止

最近、モンタネッリ『ルネサンスの歴史』を読んでいるのだが、カトリック教会に対する批判的なスタンスがあちこちでにじみ出ていて面白い。例えば、14世紀の商人たちを紹介する12章にはこんな話がある。 金を持っているのが教会だけだった時代、教会は法外な…

日本史の誕生

東洋史の有名な研究者の本を読んでみた。 日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った (ちくま文庫) 作者: 岡田英弘 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2008/06/10 メディア: 文庫 購入: 4人 クリック: 54回 この商品を含むブログ (34件) を見る 岡田氏の…

人口増加

人類はなぜ農業を始めたのか、という有名な問題がある。素朴に考えると、これは愚問だ。農業は偉大な発明である。農業を始めれば不安定な栄養状態が解消されるだろうし定住することで子育ての負担も減るし、良いことづくめではないか。農業をわざわざ始めた…

蒼き狼と白き牝鹿IV

『チンギスハーン:蒼き狼と白き牝鹿IV』(光栄1998)という古いゲームをやり直している。子供の頃は、とにかく強い将軍を集めて都市を征服するのが楽しかったが、今は街道や港といったインフラを整備するのがとにかく楽しい。例えば、都市AからBへの街道が…

生存圏

ナチス・ドイツの戦争目的は、ゲルマン人のための「生存権Lebensraum」を確保することであったとされている。すなわち、一つの「人種」、最も純粋であるとみなされた一つの民族が、そこにおいて安全に生存・存在しうる空間を確保しなくてはならない、とされ…

乳糖不耐症

乳糖不耐症(lacrose intolerant)は乳製品に含まれるラクトースを消化するラクターゼ酵素(lactase enzyme)が生成されないために身体の不調が生じる体質のことをいう。いわゆる乳製品アレルギーとは異なる。 乳糖不耐症 - Wikipedia 乳糖不耐症は異常では…

空海の謎

ちょっと前に高野山を特集した番組があって、それを見ていたら、 高野山と空海が留学していた長安の青龍寺は緯度が同じである(北緯34度)。 つまり、高野山は長安の真東にある。 こんなことができたのは空海が高度な天文的知識を持っていたから。 というよ…

シンデレラ

中沢新一の『人類最古の哲学』という本がある。この本はシンデレラのさまざまな異文について結構詳しく取り上げている。 「シンデレラ」には確認できているだけで450以上の異文があるらしい。子供向けの上品な形態もあれば、グリム兄弟の「灰かぶりの少女」…

大聖堂

ケン・フォレットの代表作『大聖堂』を読んでみた。八木雄二『天使はなぜ堕落するのか』という中世哲学の入門書で、参考図書に挙げられていた作品で、前から気になっていたのだが、長編小説なのでなかなか手を出せなかった。実際に読んでみると、終盤にいく…

沙也可

沙也可(さやか)は、文禄・慶長の役の際に、加藤清正の配下として朝鮮に渡ったが、投降して朝鮮軍に加ったとされる人物のこと。日本ではこの人物に関する記録は残っておらず、朝鮮側の資料に依存している。つまり、この人物の素性についてはよく分からんと…

広瀬隆『文明開化は長崎から』を読む

反原発の活動などで有名なノンフィクション作家の広瀬隆氏の近著『文明開化は長崎から』を読んでいる。とりあえず上巻はある程度読んだところだが、少し感想めいたことをメモっておきたい。 文明開化は長崎から 上 (単行本) 作者: 広瀬隆 出版社/メーカー: …

全国民総懺悔

映画『ヒトラー最後の12日間』で、ゲッベルスやヒトラーがドイツ国民に同情しないという趣旨の発言をする場面がある。ゲッベルスいわく 同情など感じない。彼らが選んだ運命だ。驚く者もいようが----我々は国民に強制はしてない。彼らが我々に委ねたのだ。自…

ナチスの手口

ヒトラー 権力掌握への道 後編|BS世界のドキュメンタリー|NHK BS1 録画しておいたのを今更ながら視聴した。それで思い出したのだが、麻生太郎氏が、ナチスの手口に学んだらどうか、という発言をして問題になったことがあった。この発言が問題であることの…

マキャベリ「他者を強力にする原因を作るものは自滅する」

ネトウヨが「他者を強力にする原因を作るものは自滅する」という言葉をマキャベリに帰しているのを割とよく見かけるけど、不勉強なのでいまだに出典を見つけられずにいる。この言葉が引かれる多くの場合で出典が記されておらず、記されていたとしても、せい…

日本の起源

日本の起源 (atプラス叢書05) 作者: 東島誠,與那覇潤 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2013/08/29 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (14件) を見る 古代から現代までの長いスパンで幅広い話題を扱っていて凄いなぁと思う一方で、対談のせいか議論の…

オリバー・ストーンのアメリカ史

歴史の本を気晴らしに幾つか読んだので感想を書いておく。 オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1 二つの世界大戦と原爆投下 作者: オリバー・ストーン,ピーター・カズニック,大田直子,鍛原多惠子,梶山あゆみ,高橋璃子,吉田三知世 出版社/メー…