チャーチルの有名なパラドックス…民主主義は堕落とデマゴギーと権威の弱体化への道を開くシステムだと主張する人びとにたいして、チャーチルはこう答えた。「たしかに民主主義はありとあらゆるシステムのうちで最悪である。問題は、他のどのシステムも民主主義以上ではないことだ」。この発言は「すべてが可能だ。いやもっと多くのことが可能だ」という論理に基づいている。その第一前提は、「ありとあらゆるシステム」という全体集合を提示する。その中では問題の要素(民主主義)は最悪のように見える。第二前提によれば、「ありとあらゆるシステム」という集合はすべてを包含しているわけではなく、付加的な要素と比べてみれば件の要素がじゅうぶん我慢できるものであることがわかる。この論法は次の事実に基づいている。すなわち付加的要素は「ありとあらゆるシステム」という全体集合に含まれているものと同じであり、唯一の相違はそれらはもはや閉じられた全体の要素としては機能していないという点である。政府のシステムの全体の中では民主主義は最悪であるが、政治システムの全体化されていない連続の中には民主主義以上のものはない。したがって、「それ以上のものはない」という事実から、民主主義が「最良」であるという結論を引き出してはいけない。民主主義の利点はまったく相対的なものでしかないのである。この命題を最上級で定式化しようとしたとたん、民主主義の特質は「最悪」となってしまうのである。*1
何を言ってるのか理解できないのだが、そもそもの元凶はチャーチルの発言を紹介するやり方にあるのではないかと思う。赤字部分の原文は以下。
"It is true that democracy is the worst of all possible systems; the problem is that no other system would be better."
引用符つきになっているが、これは実際にチャーチルが言ったことの正確な引用ではないと思われる。 チャーチルは次のように言った。
Many forms of Government have been tried, and will be tried in this world of sin and woe. No one pretends that democracy is perfect or all-wise. Indeed it has been said that democracy is the worst form of Government except for all those other forms that have been tried from time to time.…*2
「民主主義は最悪の政治形態である、これまで時折試みられてきた他のすべての政治形態を除けば」。これなら私でも理解できる。民主主義が完璧だとはだれも思っていないし、ひどい政治形態ではあるのだが、これまで試みられてきた他の政治形態はもっとひどいのだから、民主主義で我慢するほかない。民主主義よりよい政治形態がたくさんあり「うる」けど、そんな政治形態を我々は未だ知らない、といったところか。凝った表現だが、別にパラドクスでも何でもないと思う。